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津地方裁判所 昭和52年(行ウ)7号 判決

三重県鈴鹿市須賀一丁目一七番七号

原告

松林新由

同県同市安塚町七五一番地

右同

小林昇夫

右両名訴訟代理人弁護士

山路正雄

右訴訟復代理人弁護士

異相武憲

同県同市神戸矢田部町焼溝一一一六

被告

鈴鹿税務署長

福谷光義

右訴訟代理人弁護士

志貴信明

右指定代理人

山野井勇作

右同

石原金美

右同

北河登

右同

押田熙

右同

尾崎慎

右同

川村宣夫

右同

清水利夫

右同

宮嶋洋治

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五一年三月三日原告両名の同四七年分の各所得税についてした各再更正及び各過少申告加算税の各賦課決定をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告松林新由は農業を営むものであるが、昭和四七年分の所得税について、同原告のした確定申告、修正申告、これに対する被告の更正及び再更正並びに過少申告加算税の賦課決定と右につき同原告がなした異議申立及び被告の棄却決定並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は別表(一)記載のとおりである。また原告小林昇夫も農業を営むものであるが、昭和四七年分の所得税について同原告のした確定申告、これに対する被告の更正及び再更正並びに過少申告加算税の賦課決定と右につき同原告がなした異議申立及び被告の棄却決定並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は別表(二)記載のとおりである。

2  しかし、被告が昭和五一年三月三日原告らに対してなした各再更正(以下、本件再更正という。)及び各過少申告加算税の賦課決定(以下、本件賦課決定という。)は、以下のとおり違法である。

すなわち、原告両名は訴外洪基及び同沃川賢殊(以下、洪及び沃川という。)と別紙「譲渡物件等明細表」(以下、明細表という。)記載の鈴鹿市小田町字杉下道九二四番の一の雑種地三九六平方メートル外六三筆の土地(明細表番号1ないし64。以下、第一物件という。)を共有(持分各四分の一宛)していたところ、この第一物件を訴外東洋不動産株式会社(以下、東洋不動産という。)に対して、前記洪及び同沃川と共に売買代金四〇〇〇万円で売却したから、右売買による原告両名の収入は各一〇〇〇万円であり、譲渡費用もそれぞれ六三万九一〇五円宛要したにもかかわらず、被告は右売買代金を六五七〇万円、譲渡費用をそれぞれ二一万一五四〇円としてこれを基礎に短期譲渡所得金額を算出した。したがって右金額を前提として被告のした本件各再更正は、いずれも原告両名の所得を過大に認定したものであるから違法であり、したがって、また、本件各再更正を前提としてなされた本件各賦課決定も違法である。

よって本件各再更正及び本件各賦課決定の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。同2のうち、原告ら主張の売買代金額及び右売買による収入金額並びに譲渡費用額については否認し、違法の主張は負う。

三  被告の主張

1  原告松林新由及び同小林昇夫に係る昭和四七年分の各総所得金額及び各短期譲渡所得金額は、それぞれ次のとおりである。

(原告 松林新由分)

(一) 総所得金額 一一三万八六〇〇円

(=(1)+(2))

(1) 農業所得金額 五四万六一〇〇円

なお、これは、原告松林の申告したとおりである。

(2) 不動産所得金額 五九万二五〇〇円

なお、これは、原告松林の申告したとおりである。

(二) 短期譲渡所得金額 一〇八九万八四七三円

(=(1)-(2)-(3))

(1) 総収入金額 二九〇六万二五〇〇円

ア 第一物件 一六四二万五〇〇〇円

ⅰ 原告両名、洪及び沃川の四名(以下、原告ら四名という。)は、共同して昭和四七年一〇月一三日東洋不動産に対し、第一物件を売渡した。

ⅱ 右売買の代金の合計は、六五七〇万円であり、原告らは昭和四七年一〇月一三日手付金として一三〇〇万円、同年一二月七日追加代金離作補償金として七〇万円、同二一日残代金五二〇〇万円(保証小切手二七〇〇万円及び現金二五〇〇万円)を受領している。

ⅲ 右第一物件に係る原告松林の持分は、四分の一である。

イ 第二物件 一二五万円

ⅰ 原告両名及び洪の三名は、共同して昭和四七年一二月二九日、東洋不動産に対し、明細表記載の鈴鹿市小田町字あらこ一〇四一番の畑一五一四平方メートル(明細表番号65、以下、第二物件という。)を売渡した。

ⅱ 右代金は、二五〇万円であった。

ⅲ 右第二物件は、初めに原告ら四名が共同して取得したもの(持分各四分の一)であるが、原告松林は、沃川からその持分四分の一を譲受けたので、右第二物件に係る原告松林の持分は、合計四分の二である。

ウ 第三物件 一八万七五〇〇円

ⅰ 原告ら四名は、共同して昭和四七年中に訴外野間壮一に対し、明細表記載の鈴鹿市小田町字野中七五番の田九七八平方メートル外一筆の土地(明細表番号66、67、以下、第三物件という。)を売渡した。

ⅱ 右代金の合計は、七五万円であった。

ⅲ 右第三物件に係る原告松林の持分は、四分の一である。

エ 第四物件 一一二〇万円

ⅰ 原告松林は、昭和四七年中に明細表記載の訴外古市武司外六名に対し、それぞれ明細表記載の鈴鹿市三日市町字赤土田一〇七一番の一の雑種地一四八平方メートル外八筆の土地(明細表番号68、ないし76、以下、第四物件という。)を売渡した。

ⅱ 右代金の合計は、一一二〇万円であった。

(2) 取得費 一七七三万九二五〇円

ア 第一物件 七六六万四五〇〇円

ⅰ 取得金額 七四八万〇二五〇円

(ⅰ) 第一物件は、原告ら四名が共同して昭和四六、四七年中に明細表の「取得先」欄記載の訴外磯部秋男外二九名(明細表番号1ないし64)からそれぞれ取得したものである。

(ⅱ) 右各取得金額は、それぞれ明細表の「取得金額」欄記載のとおりであり、その合計は、二九九二万一〇〇〇円であった。

(ⅲ) 右金額に係る原告松林の負担部分は、四分の一である。

ⅱ 支払補償金 一三万四二五〇円

原告ら四名は、第一物件中の土地を取得するために、別表(三)記載のとおり、訴外磯部久外一〇名に対し、離作料等補償金として合計五三万七〇〇〇円を支払ったが、これに係る原告松林の負担部分は、四分の一である。

ⅲ 諸費用 五万円

原告ら四名は、第一物件中の土地を取得するために、訴外磯部茂に対し、諸費用として二〇万円を支払ったが、これに係る原告松林の負担部分は、四分の一である。

イ 第二物件 五四万三五〇〇円

ⅰ 取得金額 三四万三五〇〇円

(ⅰ) 第二物件は、原告ら四名が共同して昭和四七年中に明細表の「取得先」欄記載の訴外松宮一(明細表番号65)から取得したものである。

(ⅱ) 右取得金額は、明細表の「取得金額」欄記載のとおり一三七万四〇〇〇円であった。

(ⅲ) 右金額に係る原告松林の負担部分は、四分の一である。

ⅱ 持分譲受代金 二〇万円

これは、原告松林が沃川からその持分四分の一を譲受けるために同人に対して支払った金額である。

ウ 第三物件 一三万一二五〇円

取得金額 一三万一二五〇円

(ⅰ) 第三物件は、原告ら四名が共同して昭和四七年中に明細表の「取得先」欄記載の訴外松宮一(明細表番号66・67)から取得したものである。

(ⅱ) 右取得金額の合計は、明細表の「取得金額」欄記載の通り五二五万〇〇〇円であった。

(ⅲ) 右金額に係る原告松林の負担部分は、四分の一である。

エ 第四物件 九四〇万円

ⅰ 取得金額 九三〇万円

(ⅰ) 第四物件は、原告松林が昭和四六年中に明細表の「取得先」欄記載の訴外鎌田米松(明細表番号68ないし76)からそれぞれ取得したものである。

(ⅱ) 右各取得金額は、それぞれ明細表の「取得金額」欄記載のとおりであり、その合計は、九三〇万円であった。

ⅱ 仲介手数料 一〇万円

これは、原告松林が第四物件中の土地(明細表番号76)を取得するために訴外鈴鹿土地開発株式会社に対して支払った金額である。

(3) 譲渡費用 四二万四七七七円

ア 仲介手数料(その一)一二万五〇〇〇円

原告ら四名は、第一物件につき、訴外今西繁雄に対して仲介手数料五〇万円を支払ったが、これに係る原告松林の負担部分は、四分の一である。

イ 登記等諸費用 一五万九七七七円

原告ら四名は、第一物件につき、訴外樋口義行に対して登記等諸費用六三万九一〇五円を支払ったが、これに係る原告松林の負担部分は、四分の一である。

ウ 仲介手数料(その二) 一四万円

これは、原告松林が第四物件中の土地(明細表番号72ないし75)を売渡すために訴外井村左兵衛に対して支払った金額である。

(4) 以上の譲渡所得については、租税特別措置法三二条が適用される。

(原告 小林昇夫分)

(一) 総所得金額 二九万〇一〇〇円

農業所得金額 二九万〇一〇〇円

これは、原告小林の申告したとおりである。

(二) 短期譲渡所得金額 八八一万三四七三円

(=(1)-(2)-(3))

(1) 総収入金額 一七二三万七五〇〇円

ア 第一物件 一六四二万五〇〇〇円

ⅰ 譲渡の経緯は、(原告松林新由分)の(二)・(1)・ア・ⅰのとおりである。

ⅱ 右代金の合計も、(原告松林新由分)(二)・(1)・ア・ⅱのとおり六五七〇万円であった。

ⅲ 右第一物件に係る原告小林の持分は、四分の一である。

イ 第二物件 六二万五〇〇〇円

ⅰ 譲渡の経緯は、(原告松林新由分)の(二)・(1)・イ・ⅰのとおりである。

ⅱ 右代金も、(原告松林新由分)(二)・(1)・イ・ⅱのとおり二五〇万円であった。

ⅲ 右第二物件に係る原告小林の持分は、四分の一である。

ウ 第三物件 一八万七五〇〇円

ⅰ 譲渡の経緯は、(原告松林新由分)(二)・(1)・ウ・ⅰのとおりである。

ⅱ 右代金の合計も、(原告松林新由分)(二)・(1)・ウ・ⅱのとおり七五万円であった。

ⅲ 右第三物件に係る原告小林の持分は、四分の一である。

(2) 取得費 八一三万九二五〇円

ア 第一物件 七六六万四五〇〇円

ⅰ 取得金額 七四八万〇二五〇円

(ⅰ) 取得の経緯は、(原告松林新由分)の(二)・(2)・ア・ⅰ・(ⅰ)のとおりである。

(ⅱ) 右各取得金額の合計も(原告松林新由分)の(二)・(2)・ア・ⅰ・(ⅱ)のとおり二九九二万一〇〇〇円であった。

(ⅲ) 右金額に係る原告小林の負担部分は、四分の一である。

ⅱ 支払補償金 一三万四二五〇円

支払の経緯は、(原告松林新由分)の(二)・(2)・ア・ⅱのとおりであり、原告小林の負担部分も四分の一である。

ⅲ 諸費用 五万円

支払の経緯は、(原告松林新由分)の(二)・(2)・ア・ⅲのとおりであり、原告小林の負担部分も、四分の一である。

イ 第二物件 三四万三五〇〇円

取得金額 三四万三五〇〇円

(ⅰ) 取得の経緯は、(原告松林新由分)の(二)・(2)・イ・ⅰ・(ⅰ)のとおりである。

(ⅱ) 右取得金額も、(原告松林新由分)の(二)・(2)・イ・ⅰ・(ⅱ)のとおり一三七万四〇〇〇円であった。

(ⅲ) 右金額に係る原告小林の負担部分は、四分の一である。

ウ 第三物件 一三万一二五〇円

取得金額 一三万一二五〇円

(ⅰ) 取得の経緯は、(原告松林新由分)の(二)・(2)・ウ・(ⅰ)のとおりである。

(ⅱ) 右取得金額の合計も、(原告松林新由分)の(二)・(2)・ウ・(ⅱ)のとおり五二万五〇〇〇円であった。

(ⅲ) 右金額に係る原告小林の負担部分は、四分の一である。

(3) 譲渡費用 二八万四七七七円

ア 仲介手数料 一二万五〇〇〇円

支払の経緯は、(原告松林新由分)の(二)・(3)・アのとおりであり、原告小林の負担部分も、四分の一である。

イ 登記等諸費用 一五万九七七七円

支払の経緯は、(原告松林新由分)の(二)・(3)・イのとおりであり、原告小林の負担部分も、四分の一である。

(4) 以上の譲渡所得については、租税特別措置法三二条が適用される。

2  原告松林及び同小林の各昭和四七年分の各総務所得金額及び各短期譲渡所得金額は、いずれも右1のとおりであるところ、被告は同原告らに対し、昭和四七年分の各所得金額について別表(一)、(二)記載の経緯で各更正、賦課決定等をなしたのであり、このうち同五一年三月三日付でなした本件再更正及び本件賦課決定は、別表(一)、(二)の各「再更正」欄記載のとおり、いずれも右1の各所得金額の範囲内でなされているから、本件各再更正及び本件賦課決定は、いずれも適法である。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張1のうち(原告松林新由分)について

(一) 記載の事実は認める。(二)・(1)のうち、ア・ⅰ、ⅱのうち手付金と保証小切手受領に関する事実及びⅲ、イ、ウ・ⅰ及びⅲ、エ記載の各事実はいずれも認め、ア・ⅱのうち右以外の事実及びウ・ⅱ記載の事実はいずれも否認(第一物件及び第三物件の各売買代金はそれぞれ四〇〇〇万円及び七〇万円である。)する。(二)・(2)ないし(4)記載の各事実はいずれも認める。

2  被告の主張1のうち(原告小林昇夫分)について

(一) 記載の事実は認める。(二)・(1)のうち、ア・ⅰ、ⅱのうち手付金と保証小切手受領に関する事実及びⅲ、イ、ウ・ⅰ及びⅲ、エ記載の各事実はいずれも認め、ア・ⅱのうち右以外の事実及びウ・ⅱ記載の事実はいずれも否認(第一物件及び第三物件の各売買代金はそれぞれ四〇〇〇万円及び七〇万円である。)する。(二)・(2)ないし(4)記載の各事実はいずれも認める。

3  被告の主張2のうち、被告が原告らに対し、昭和四七年分の各所得金額について別表(一)、(二)記載の経緯で各更正、賦課決定等がなされたことは認める。

4  原告ら四名は、第一物件を共有していたが、昭和四七年一〇月一三日、有限会社久保田不動商事(以下、久保田不動商事という。)を介して東洋不動産に対して四〇〇〇万円で売渡し、同日手付金一三〇〇万円を受領し、同年一二月二一日ころ、残金二七〇〇万円を保証小切手にて受領したが、このほか第一物件に関して東洋不動産から金員を受領していない。

第三証拠

一  原告ら

1  甲第一号証の一、二、第二ないし第四号証

2  証人清水公隆、原告松林新由本人

3  乙第二号証の二、第三号証、第四号証の一ないし五、第五ないし第八号証、第一一号証の二、三の成立はいずれも不知(第三号証、第四号証の一及び三ないし五、第一一号証の二、三については原本の存在共。但し、第二号証の二の原本の存在は認める。)。その余の乙号各証の成立(第九号証及び第一一号証の一以外については原本の存在共)はいずれも認める。

二  被告

1  乙第一、二号証の各一、二、第三号証、第四号証の一ないし五、第五ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし六、第一二号証、第一三、一四号証の各一、二、第一五号証、第一六ないし第一八号証の各一、二、第一九ないし第二一号証、第二二号証の一、二、第二三号証、第二四号証の一ないし三、第二五ないし第二七号証

2  証人有賀重介、同山田太郎、同清水公隆

3  甲号各証の成立はいずれも認める。

理由

一  請求原因1の事実、被告の主張1(原告松林新由分)(一)、(二)・(1)のうち、ア・ⅰ、ⅱのうち手付金と保証小切手受領に関する事実及びⅲ、イ、ウ・ⅰ及びⅲ、エ、(二)・(2)ないし(4)、同1(原告小林昇夫分)(一)、(二)・(1)のうち、ア・ⅰ、ⅱのうち手付金と保証小切手受領に関する事実及びⅲ、イ、ウ・ⅰ及びⅲ、エ、(二)・(2)ないし(4)記載の各事実、同2のうち、被告が原告らに対し、昭和四七年分の各所得金額について別表(一)、(二)記載の経緯で各更正、賦課決定等をなしたことはいずれも当事者間に争いがない。

したがって、被告が原告らに対し、昭和五一年三月三日付でなした本件再更正及び本件賦課決定の対象とした各所得金額のうち各短期譲渡所得金額に関する第一物件及び第三物件についての売買代金以外の点については、当事者間に争いがないことになる。

二  そこで、以下、右の各売買代金額について順次検討する。

1  第一物件について

(一)  前記争いのない事実に成立について争いのない乙第一号証の一、二、第九、一〇号証、第一一号証の一及び四ないし六、第一二号証、第一三号証の一、二、第一五号証、第一六ないし一八号証の各一、二、第一九ないし第二一号証、第二二号証の一、二、第二三号証、第二四号証の一ないし三、第二七号証(乙第九号証及び第一一号証の一の外は原本の存在共)証人山田太郎の証言並びにこれにより真正に成立したものと認められる乙第三号証、第四号証の一ないし五及び第五号証(乙第三号証及び第四号証の一ないし五は原本の存在共)、同清水公隆の証言並びにこれにより真正に成立したものと認められる乙第六号証及び第一一号証の二、三(原本の存在共)、同有賀重介の証言、原告松林新由本人尋問の結果(但し、後記の措信しない部分は除く。)を総合すると、次の事実が認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

(1) 原告松林及び同小林は洪及び沃川と共に、第一物件を共有(各人の持分は四分の一宛)していたところ、昭和四七年一〇月ころ久保田不動商事を介して東洋不動産に対し、当初七〇〇〇万円で売却を申入れ、双方折衝の結果、同月一三日代金六五七〇万円でこれを売却することとなった。

しかしながら、右売買契約を締結する際、原告ら四名と東洋不動産との間において、右売買契約は売買代金四〇〇〇万円として締結されたものとし、残り二五七〇万円についてはいわゆる裏金として支払う旨の合意がなされ、売買契約書も売買代金を四〇〇〇万円と圧縮記載して作成(但し、売主ら四名ではなく、久保田不動商事とした。)された。

東洋不動産は、久保田不動商事に対し、右売買代金の決済として、昭和四七年一〇月一三日に手付金一三〇〇万円を小切手で、同年一二月七日に七〇万円を現金で、同月二一日に残金五二〇〇万円を保証小切手で二七〇〇万円、現金で二五〇〇万円を支払い、合計六五七〇万円の支払を了した。

(2) そして、原告松林は久保田不動商事から、右手付金一三〇〇万円のうち、訴外今西繁雄に対して仲介手数料として支払われた五〇万円を控除した一二五〇万円の四分の一である三一二万五〇〇〇円を小切手で受領し、また右二七〇〇万円についてはその四分の一である六七五万円を小切手で受領し、うち三〇〇万円を期間一年の銀行定期預金とし、三七五万円を一旦小切手としたうえ昭和四七年一二月三〇日に現金化した。

ところで、原告松林は前記現金二五〇〇万円については、その四分の一である六二五万円を現金で受領し、同小林に貸与していた三一二万五〇〇〇円の返済金と手持ち資金とを合せて同月二八日一年六か月の銀行定期預金(一〇〇万円を四口、二〇〇万円を三口、合計一〇〇〇万円。但し、二〇〇万円の預金については架空人名義の預金であった。)とした(なお、原告松林は前記七〇万円については、その支払がなされたころその四分の一を現金で受領したものと推認される。)。

(3) 原告松林は、昭和四七年ころ、農業に従事する一方、久保田不動産商事の従業員として稼動し、また、同小林も右久保田不動商事の代表取締役久保田仁と親戚関係にあるなど原告両名は久保田不動商事とは親密な関係にあった。

原告松林本人尋問結果中、原告ら主張にそい、右認定に反する供述部分は、たとえば前記認定の合計一〇〇〇万円の一年六か月の銀行定期預金(一〇〇万円四口、二〇〇万円三口)については、原告小林に貸与した金員の返済金三一二万五〇〇〇円に鈴鹿農業協同組合(当時河曲農業協同組合)からの借入金の一部を加えたものであると供述し、一方、成立に争いのない甲第一号証の一、二、第二号証によれば、原告松林は右組合から金員の借入をしていたことが認められるが右甲第一号証の一によれば、原告松林の右組合からの借入金には年利九・五パーセントの約定利息が付けられていると認められるから、このような借入金を七〇〇万円近くもあえて一年六か月の銀行定期預金とするのは不自然であるというべきであり、この間の事情を首肯しうるに足りる合理的な説明はなんらないことまた、仮に裏金の授受があったとすれば、洪に対してではないかとする点についても、久保田不動商事が従業員である原告松林を差し置いて、東洋不動産から受領した二五〇〇万円を洪に交付してしまったというのも不自然であるばかりか、これを窺わせる証拠は同原告の供述のほかなんらないことなどそれ自体に不自然なところが多く、前記証人らの各証言と対比すると同原告の右供述部分は、たやすく措信できないというべきである。

(二)  右(一)によれば、原告松林は、第一物件に関して、東洋不動産から久保田不動商事を介して売買代金六五七〇万円の四分の一である一六四二万五〇〇〇円を受領したものと認めることができる。

(三)  また、原告小林についても、前記各証拠並びに原本の存在及び成立共争いのない乙第二二号証の一、二を総合すれば、同松林と同様に第一物件に関して、東洋不動産から久保田不動商事を介して、売買代金六五七〇万円の四分の一である一六四二万五〇〇〇円を受領したものと推認され、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

2  第三物件について

前記争いのない事実並びにその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第七、八号証によれば、原告ら四名は訴外野間壮一に対し、昭和四七年一一月ころ、共有(各人の持分四分の一宛)にかかる第三物件を、売買代金七五万円で売却したことが認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

三  以上によれば、原告松林の昭和四七年分の総所得金額は一一三万八六〇〇円、短期譲渡所得金額は一〇八九万八四七三円と認められるから、別表(一)再更正欄記載のとおり、同原告の総所得金額を一一三万八六〇〇円、短期譲渡所得金額を一〇二八万二一一五円としてなした同原告に対する本件再更正は同原告の右所得金額の範囲内でなされたものであって、右再更正には同原告の所得を過大に認定した違法は存しないことになる。

また、原告松林にかかる賦課決定についても、その前提である同原告にかかる再更正に所得を過大に認定した違法がないから、これに基づいて別表(一)再更正欄記載のとおり過少申告加算税額を一三万二〇〇〇円としたことにも違法はない。

次に、原告小林の昭和四七年分の総(農業)所得金額は二九万〇一〇〇円、短期譲渡所得金額は八八一万三四七三円と認められるから、別表(二)再更正欄記載のとおり、同原告の総所得金額を二九万〇一〇〇円、短期譲渡所得金額を八四八万七二一五円としてなした同原告に対する本件再更正は同原告の右所得金額の範囲内でなされたものであって、右再更正にも同原告の所得を過大に認定した違法は存しないというべきである。

そして、原告小林にかかる賦課決定についても、その前提である同原告にかかる再更正に所得を過大に認定した違法がないから、これに基づいて別表(二)再更正欄記載のとおり過少申告加算税額を一二万七三〇〇円としたことにも違法はない。

四  以上の次第で、被告の原告両名に対する本件再更正及び本件賦課決定には原告ら主張のような違法は存しない。

よって、原告らの本訴請求は理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野精 裁判官 大津卓也 裁判官 秋武憲一)

別表(一)

原告 松林新由

〈省略〉

(注△---減額の意である。)

別表(二)

原告 小林昇夫

〈省略〉

別表(三)

支払補償金明細表

〈省略〉

別紙 第一物件(番号1~64) 譲渡物件等明細表

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

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